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患者さんへのメッセージ

現在、がん治療のために療養中で、これから復職したい方々へのメッセージ

- 順天堂大学 公衆衛生学講座 遠藤源樹 -

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 「がんは、昔と違って、治りやすくなった」とか、「がんは慢性疾患のように、付き合っていく病気になりつつある」とかいう人がいますが、私は、このような捉え方には、大きな違和感と強い怒りを覚えます。確かに、新しい抗がん剤などの出現など、医療は益々進歩していますが、相変わらず、「がんは、生きるために、闘わなければならない病」です。がんは、日本人男性の3人に2人、日本人女性の2人に1人が生涯でかかる病であり、今、健康な人でも、がんと突然、診断される可能性は誰にでもあります。

「がんになって初めて気付くことが沢山ある」
それは、今まで多くのがん患者さんを就労支援させていただいた中で、私が一番感じていることです。

「いきる」
「はたらく」
「かぞく」
「ゆめ」

 毎日、生きているだけで奇跡であり、働ける体であるだけで健康であり、家族が一緒にいるだけで幸せであり・・・

 がんは、そんな、一見、「何気ない日常、当たり前のこと」が、本当は、「とても有り難いこと、奇跡であること」を教えているような気がします。

 20代から60代ぐらいまでの「働く世代」で、がんと診断される人は、日本で毎年20万人以上いると言われています。
 そして、プライベートも殆どなく、患者さん達の為に一生懸命に働いていらっしゃる医師や看護師の方々、苦しんでいる患者さん達の為に新薬などを開発する研究者の先生方の御蔭で、がんの生存率は、少しずつ伸びています。
 今は、主治医の先生を信じて、治療に耐えるしかありませんが、復職した時の御自身のイメージをいつも持って、一日一日を大切に生きてください。
 「がんになっても、働きつづけられる社会」になる一歩として、2016年に、事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドラインが、2016年12月に、がん対策基本法が改正され、「事業者は、がん罹患社員の雇用継続に努めなければならない」ことになりました。時代は、がんになっても、働き続けられる労働環境を整える方向に風が吹いています。

 ですので、会社に悪いから・・・と言って、自己都合退職などで離職しないでください。皆さんが勤めてきた会社というのは、サッカーの日本代表の国際試合でいえば、「ホームグラウンド」です。一方、一旦離職して、他の会社に就職したとすると、全く新しい会社は「アウェー」になります。「アウェ―」は、勝手がわからず、知り合いも少なく、周りからの目も厳しくなりがちです。ですので、「ホーム」の方が、「アウェー」に比べて、圧倒的に復職しやすく、働き続けやすいでしょう。御自身の「ホームグラウンド」である元の会社に復職することを第一に、離職しないように、会社の総務の方によく御願いをして、治療に臨んでいきましょう。

 このホームページの「がんと就労のエビデンスブック」に書いてありますが、フルタイムで復職するまで約6か月半ぐらい、「平均」してかかることが我々の研究で明らかとなりました。上司や総務人事労務担当の方には、「もしかすると、治療によって、休み始めてから6か月くらいかかるかもしれませんが、現在は、がんの治療法が進んでいるようです。治療がひと段落して、体力が戻ってくるまで、私を待って頂けたら有難いです」とお願いしてもよいかもしれません。会社が皆さんにとってのホームグラウンドであるなら、きっと、会社の方々も、分かってくれるはずです。
 「復職」という夢に向かって、治療が上手くいき、体力が少しずつ回復されることを切に願います。

 さて、ここで忘れてはならないことがあります。
病院では、主治医の先生や看護師の方々など、多くのスタッフの方が、あなたの社会復帰を応援してくれると思いますが、職場という世界では、あなたは一人の社員に過ぎません。

職場は、病院やリハビリ施設ではないのです。

「毎日、決まった時間に起床し、決まった時間までに出社しなければならない。」
「上司などから与えられた仕事を、それなりに、こなさなければならない。」
「職場では協調性をもって、組織の一員として努める」など、
がん治療後、退院できたら、直ぐに復職できるわけではありません。
 職場には、「利害関係の絡む空気」があります。

 

 復職後の治療(抗がん剤の治療)、再発への不安などからくる睡眠障害やメンタルへルス不調など、図の1段目の「生きる」部分が「ぐらぐら」揺らぎやすい状況であるのに、2段目の「働く」部分を維持しながら、働いていく…
 がん患者の皆さんが職場復帰した後に、治療と両立しながら、働き続けていくことは、想像以上に大変困難なことです。

 ここで、がん治療と就労を両立するために、ポイントをまとめてみました。

①がん治療で、仕事を休まなければならないことが分かったら・・・
 いつまで休めるのか(身分保障期間)、いつまでお給料が出るのか(所得補償期間)、傷病手当金制度などを、職場の総務等で必ず確認した方がよいでしょう。病名、現在の治療方針、入院期間など、主治医の先生から聞いている内容を職場に伝え、出来る限りスムーズな仕事の引継ぎを行うことが必要でしょう。がんの治療などで、療養が必要な状況になった時には、主治医の先生に「療養が必要である」旨の診断書を書いてもらい、職場に提出することが一般的です。

②主治医の先生と面談する際には・・・ 
 主治医の先生に、今後の治療方針(抗がん剤治療など)、仕事に戻れそうな時期、再発の可能性などを説明してもらい、それをメモして、記録として残しておきましょう。

③治療がひと段落したら・・・
 職場(総務・人事・直属の上司)に電話などで連絡して、現在の治療計画、自分の病状、いつぐらいに復職できそうか、主治医の意見などをメモしたものを見ながら職場に伝えても良いですが、がんのステージなどは説明する必要性はありません。あくまで、仕事に関係する部分のみ、情報を伝えればよいのです。また、短時間勤務が許されるのか、仕事内容の変更の希望など、聞ける範囲で職場に尋ねても良いでしょう。

④自分自身の体力・気力がどれ程ありそうなのかを確認
 自分の気力・体力が、元気に働いていた時の7割以上はあることを、自分自身で確認することをお勧め致します。
 (主治医の先生に、「直ぐにでも、仕事に戻りたい」と懇願したら、復職可能の診断書を書いてくれるかもしれないが、5割や6割ぐらいの体力・気力では、毎日、週5日職場に通勤し続けることは困難であり、突発休や再休務せざるを得ないケースが多いのです)
 体調をチェックするポイントとしては・・・
  ☆よく睡眠がとれているか?
   (寝つきが悪いとか、夜中に目が覚めることなどなく、それなりよく眠れていること。どうしても眠れないのであれば、早めに精神科医の先生にご相談ください)
  ☆それなりに食事がとれているか?
  ☆一定の頭脳労働が可能かどうか? 
   (一定時間の読書、記録力、集中力が持続するかどうか)
  ☆一定の体力があるか? 
   (息切れやだるさなどなく、それなりに生活できるかどうか)

 職場復帰できるくらいまで、体力・気力が回復するには長い時間がかかります。
 『あせらず、あわてず、あきらめず』
 体力・気力が本来の7割まで、回復するのを待つ方が良いでしょう。

⑤復職できそうになったら・・・
 主治医の先生に、「就労可能」や「復職可能」と記載して頂いて、その診断書を職場に提出することが一般的です。
 診断書には、職場が短時間勤務や時差出勤、作業内容の変更等、ある程度配慮してくれそうであれば、主治医の先生の診断書に、「短時間勤務が望ましい」とか、「現時点で就労可能であるが、今後2か月程、外来での化学療法が継続する見込みである」とか、記載されていると、職場は動きやすいと思います。
 診断書は、職場に提出する書類として、極めて重要です。

⑥復職することになったら、復職面談をお勧め致します
 復職後の治療、勤務のことを、復職面談によって、職場とよく相談する方が良いかと思います。特に、配慮してもらいたいことを明確にして、その旨を職場に相談すると良いかと思います。
 産業医がいる職場(50人以上の事業所なら必ず月一回訪問しているはず)ならば、産業医に、復職支援のアドバイスをもらうと良いでしょう。
 産業医は、就労支援の専門家です。産業医がいる職場でしたら、産業医面談を受けることをお勧め致します。

⑦気持ちが落ち込んで、夜があまり眠れないようなら・・・
 メンタルへルス不調を感じたら、迷わず、精神科医の先生の診察を受ける事をお勧め致します。

⑧復職して、職場に戻ったら・・・
 職場の方々のサポートを受けられるよう、日々感謝の気持ちを伝えるようにした方が良いかと思います。

⑨職場に相談しづらい場合は・・・
 職場に相談しづらい場合などは、がん相談支援センターなどで相談してみるのも、良いかもしれません。

⑩復職したら・・・毎日職場に通勤できているだけで、十分です。
 今日も、職場に行けた自分をよく褒めてあげてください。
 気負わず、ぼちぼち、職場に慣れていけばいいのですから。
 (あまり大きな声では言えませんが・・・)
 復職できたら、毎朝、職場に通勤できただけで十分だと思います。
 「通勤が、その日一日の95%、仕事をしたようなもの」と(こっそりと)考えるようにしましょう。
 「休んでいた分、早く一人前に仕事をしないと」とか、「せっかく、復職できたんだから、一生懸命頑張らないと」とか、気負いすぎては、体力・気力が持ちません。体力・気力は、70~80%しかないのですから。
 やはり、仕事は続けてこそ、意味があります。
 自分の体力とよく相談しながら、長く、「低空飛行」でも、働いていけるように、ぼちぼち・・・でいきましょう。
 そして、週5日、遅刻せずに職場に行けた自分をよく褒めてあげて、時間だけが解決してくれると思って、毎日の体調管理にベストを尽くしていきましょう。

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